第6回 有る方の異常飛行からの回復の経験

 ある方の異常飛行からの回復の経験から、前回記載した2通りの回復操作方法があるという説明が根拠のあるものかどうか、パイロットは、どの方法を選ぶかという選択の余地があるのかを検討したいと思います。

2003年の5月の連休中の体験です

 私が使用している機体の翼の色は上面が赤,下面が 白です。(DHV2−3)

 私は、着陸しようとして、着陸地点から真北から約45度,水平距離約500m風向は約   60度で着陸しようと,高度300m程度で,高度処理中に異常飛行状態を経験しました。

高度処理とは,着陸地点へ正確,かつ安全に最終アプローチするため,高度を下げる事を意味します。方法は他の航空機と同様に旋回,左右に九折する操作が一般的におこなわれます。

すなわち翼を傾ける事によって,大気に対して翼面積を小さくする(*恵古注翼面積を小さくすると下降速度が増す?)ことになります。上昇の場合も同様の操作をしますが,その場合は,上昇する大気との関係で上昇します。航空機はエンジンの力を使って同様に上昇します。

パラグライダーはエンジンがありませんので,大気の状態をパイロットが判断し,操作をおこない上昇,下降そのものは,大気任せになります。

パラグライダーは風向に正対した状態が最も安定していますが,高度処理中は前記の操作を繰り返しますので,常に風向に正対はして?(常に正対していない、というのと、常には正対していない、というのでは意味が異なるので、どちらであるかを、決めて下さい……*恵古注)。

高度処理中、“バサ”という大きな音と同時に水平面から体が45度程度傾きました。(恵古注……翼が潰れるとバサという音がする)上を見上げたところ翼が赤い葉巻状になっているのが見えました。

 左の翼が落ちて、前縁が大きく潰され,パラグライダーの翼の全体の60%程度が,左が大きく,右に行と 同時に水平面から体が左に45度程度傾きました。……翼が(潰れるとき音くにしたがって小さく,翼上面が,下面に巻き込まれていました。

結果,左側の翼は機能を失い,翼とハーネス間のラインは張力を失い,私の体が左へ45度程度傾斜する形になりました。(多くのハーネスには,クロスベルト機能を付加しているものが多く,私のハーネスもその機能を有していますので,45度程度の傾きで収まりました。

  機能が付加されていないハーネスであれば,90度弱まで傾いたと思います。

  クロスベルト機能:古くはハーネス底部と,ハーネスと翼を結合する,カラビナ部分を胸部付近でクロスさせた状態で,ベルトで接続していたため,クロスベルトと呼ばれていました)。

注)正常飛行の場合,翼は下から見上げると,笹の葉状に見えます。

 その状態でブレーキラインを腰まで引いて,自由落下状態にしました。ブレーキラインをストッパーまで引くと,前縁部は上を向き,後縁部は窄まった形になります。潰れた時点で翼内部の空気の相当部分は出ています。翼に対する空気の新たな流入はありません。

 翼と私の位置関係は、自由落下状態にしたことで、体が完全に真下に入りました。

 その状態で,ブレーキラインを一気に開放しました。すると翼だけが前へ行き,翼としての機能を回復し始め,翼は風を孕み、翼の形状は70%程度回復しました。

 翼の形状は70%程度回復の意味は、翼は自由落下から回復し、私は翼の中央に垂直にぶらさがった状態で、ラインも垂直の状態で正常に近かったが、右側の翼の一部が、内側へタックしてラインに絡み付いていたので、それを数字であらわすと70%程度の回復という感じになるという意味です。右翼のラインへの絡みを修復できれば100%の回復となるとして,70%程度の回復状態というふうに表現しました。

その後,右側の翼が内側へ,タックしてラインに絡み付いていることから ,機体は右側に旋回に入り始めたので,左のラインを少し引き,急激な旋回に入る事を防ぎました。

それでも旋回は止まりません。

右側のAライザーを握り大きく上下に引き,戻しを数回繰り返したところ,翼の形状は全面的に回復し,旋回は治まりました。

 この方は、ブレーキラインをストッパーまで引いて、自由落下状態にして、一気に開放する回復操作をしておられます。これを、この議論では第1の回復操作と呼ぶことにします。同様の状況から、前回(第5回)記載した第2の方法、ブレークコードを使用せず、機体が行くところまで行かせる方法でも、回復可能でしょうか? つまりパラグライダーの左の翼が落ちて、前縁が大きく潰され,パラグライダーの翼の全体の60%程度が,左が大きく,右に行くにしたがって小さく,翼上面が,下面に巻き込まれ、その結果,左側の翼は機能を失い,翼とハーネス間のラインは張力を失い,パイロットの体が左へ45度程度傾斜する形になった状態で、自由落下にしないで、飛行を続けたら、どうなったでしょう? そしてフライヤーの方は、このような場面に遭遇した場合、どちらの回復操作にしようかとお考えになるのでしょうか?2つの方法は、回復操作として互換性が認められるのでしょうか?

また第1の回復操作(ブレーキラインをストッパーまで引いて、自由落下状態にして、一気に開放する方法)をしても、常に必ず翼の形状が100パーセント正常に回復する訳ではないようですけれど、それは回復操作の仕方が悪い(操作ミス)とはいえない、と思いますけど、みなさまは、どうお考えでしょうか?



Copyright (C) 2005 [ IZUMI KYOKO FOUNDATION ] All rights reserved.