パラグライダーの基礎知識

パラグライダーフライヤーのご家族や警察、救急救命隊員・検察・弁護士・司法・マスコミ関係者の皆様がパラグライダー事故に関わる際に必要な、パラグライダーの基礎知識を知っていただくためにこのページを作りました。

パラグライダーは、1980年代に、登山家が登頂後の下山手段として、使用しはじめたのが始まりだと言われています。

当初のパラグライダーは、現在スカイダイビングに用いられている角形の翼型をして左右のコントロールラインが付いたパラシュートに近い物でした。その後改良され、現在のように横長で長楕円形の外形となって、滑空性能も飛躍的に高まり、翼の幅は10m〜12mぐらい。前後の長さは3m〜5mぐらい。降下用パラシュートとは大きく違う物になっています。

通常の飛行速度は時速35km前後で、最高速度は時速50km近くまで有る機体もあります。失速速度(滑空飛行が成立しなくなる速度)20kmぐらいで、これ以下の速度になると翼面を流れる空気が剥離し落下状態に陥ります。

滑空比(静止した空気中で100mの高さから飛行して着地するまでに、何m先まで進むかを計算した比率)7〜8ぐらい。高い山から離陸して遠くまで飛びます。

沈下率(静止した空気を飛行中、毎秒何m降下するか)1.2m前後にまで高性能化しています。これにより理論的には、上に向かう風(上昇気流)が毎秒2m有れば、2m-1.2m=毎秒0.8mで上昇することができます。

翼は水平よりもわずかに下向きにセットされて、この下向きの角度で空気を滑り降りていきます。

この角度と翼に吊り下がる重量と全体の空気抵抗などの様々な要素のバランスで飛行が成立します。

パラグライダーの構造

翼は、布製の筒を横に並べてつないだ構造で、筒の前側は口が開いていますが、後ろ側は閉じています。

現在のパラグライダーでは、中心から左右対称に筒の大きさや長さが小さくなっていき、外側の端にいくに従って、小さく短い筒となっています。筒の入り口は前縁のすこし下側に開いていて、離陸時にはここから翼内に一気に空気を取り入れ、飛行中は前縁の下側に位置するので、空気抵抗にならないよう工夫されています。隣り合わせる筒は翼内部で穴が開いており、隣接する筒に空気が流入しやすくなっていて、翼内部の空気圧力が均等になり翼の形状を形成しやすくなっています。翼は前縁の少し後ろがいちばん厚く、後ろに行くほど薄くなって、最後部は布だけの厚さです。断面的には下側の布は前から後ろまで直線的ですが、上側の布は前が厚いアーチ状になっていて、飛行機の翼と同じような断面形状です。理論的にも飛行機の翼と同じで、翼の下側を流れる空気に対し、翼の上を流れる空気は同じ時間に湾曲した長い距離を早く流れるため、翼を上に持ち上げる揚力を発生させます。

翼には操縦者を吊り下げるために多数の糸が取り付けられています。一般的なパラグライダーは、前から4列〜5列の糸が付いていて、最前列から「Aライン」「Bライン」「Cライン」」「Dライン」「ブレークコード」となります。最後尾の「ブレークコード」は翼の後縁に付いていて、通常荷重は掛かっていませんが、コントロールの際に、中心から右側のブレークコードを引けば翼の右後縁が引き下げられて右旋回し、左側のブレークコードを引けば左旋回。両方同時に引くことで減速します。通常、糸は翼から1mほど下のところで2〜4本づつが束ねられ、1本になり、場合によってはそれを何回か繰り返すことで、操縦者の近くにいくほど少ない本数となり絡みにくく、さばきやすく、空気抵抗も少ないシンプルな構成になります。最後に糸は左右のグループごとに「ライザー」と呼ばれる専用のシュリングベルトの束に金具で取り付けられます。飛行の際に、このライザーをカラビナでハーネスに取り付けます。

ハーネス:操縦者が体に装着するハーネスは、飛行の際にイスのような形状となる体の保持具です。改良が進んだ現在は、FRPやケブラーなどの固い素材と空気やウレタンなどスポンジ状の柔らかい素材を組み合わせて衝撃吸収性能を持たせ、空気抵抗を減らす形状をしたものが一般的です。翼から繋がる左右2束のライザーを左右のショルダーベルトにカラビナで取り付けて飛行します。

パラグライダーの材質

化学繊維の布を縫製して作られています。この布は POLYAMIDE (NYLON)や、POLYESTER (TERGAL)等の特殊なコーティングをした化学繊維です。ラインには ARAMIDE(KEVLAR)やPOLYAMIDE(NYLON)、POLYESTER (TERGAL) ・ POLYETHYLENE などの強靱な繊維が用いられています。ラインは紫外線劣化や摩耗を防ぐために、ほとんどの機種で被覆されて使われています。競技者が使用する被覆の無いコンペラインと呼ばれる繊維むき出しのラインは劣化が早いが、空気抵抗が減り速度が増すので、機体の挙動が変わり、安全性試験のレーティングよりも安全性が劣ることが多くなります。

パラグライダーの性能

無風の静止した大気中を飛行して、100mの高さを降下する間に、前に100m進むと、「滑空比1」。100mの高さを降下する間に、前に700m進むと「滑空比7」とされています。静止した大気を最良滑空速度で飛行中に1秒あたり何m降下していくかを「沈下率」と言います。

一般的なパラグライダーの滑空比は7〜8ぐらいです。

一般的なパラグライダーの前進速度は:時速20km〜45kmぐらいで、巡航速度は35km前後です。

一般的なパラグライダーの沈下率は:毎秒1.2m前後です。

パラグライダーの飛行

パラグライダーは高いところから滑空して降りていくのですが、降下する速度よりも早く上昇する上昇気流に入れば、その気流の中に留まって空気と共に高く上昇することができます。パラグライダーで利用する上昇気流は「サーマル」と言って、太陽熱で暖まりやすい地表の黒い土が露出している場所や広い面積のアスファルト等に接している空気が、熱くなった地表の熱で暖まり、膨張して周辺の空気よりも比重が軽くなるため、地表を離れて上昇しはじめます。この空気の塊、あるいは状況を言います。太陽が高くなって地表が強く熱せられるほど活発になり、同時に周辺空気との温度差が大きいほど強くなります。他にも、山の斜面に吹き付ける風が、斜面に添って山を駆け上がる斜面上昇風を利用して飛びます。この斜面上昇風とサーマルを利用すれば、離陸地点より高く長時間飛ぶことができます。

パラグライダーの操縦

パラグライダーの速度調節方法は「アクセル」と「ブレーキ」の、2つが有ります。

「ブレーキ」は、翼の後ろ縁を、左右それぞれ別に引き下げて速度を遅くするパラグライダーをコントロールする主な操縦装置です。右のブレークコードを引き下げれば、右翼後縁が下がって翼の右側速度が遅くなって右に旋回し、左を引けば左に旋回します。左右同時に引き下げると、前進速度が遅くなり、着陸する際などに前進する速度を最小にして安全に軟着陸する事に使います。

「アクセル」は、翼の下向き角度を増す加速装置で、足でアクセルライン引き下げることで左右のAライザーが同時に下に引き下げられ、それに連動してBライザーも下に引かれ、翼の下向き角度が強まり、滑空速度が増す仕組みです。周囲の空気に対してほぼ一定の速度で前進降下しているパラグライダーは、自力で上昇することも前進する事も無く。滑空する速度をブレーキで遅くする事で左右方向のハンドリングと、降下角度を変える事で操縦します。

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